『 幻狼幻想物語組曲 』
  第三楽章 ― 東雲 ―

 〜 Dream of Harvest tail 〜
   [ 狐色の追憶 ]

   track09 ‹社参り›



 人の世は変わらぬ
 世相が如何な変遷を遂げようと
 其処に息づく者の願いは変わらぬのだ



 連綿と紡がれ続ける想い。産まれては死に、そしてまた生まれる命。
 人の一生は短い。
 風前の灯が如く、消えるは容易い。
 故に誰もが願う。
 無病息災
 不老長寿
 儚きを知るが故に守らんとする。

 ――だが。
 面白いものだな。
 己が身を案ずる者が多いと思いきや、どうもそうでもないらしい。絵馬の願を見れば意外と他者の健康を願うものが大半を占める。
 子を想う母。
 老婆を想う孫。
 曾孫を想う老夫婦。
 形は人それぞれにして、想いは変わらぬ。
 想いや願いといったものは、程度の差こそあれ行き着くところは同一なのだろう。



 此の頃世相は随分と荒んでいるようだ。風を読めば忌まわしい匂いが幾らでも嗅いで取れる。
 欲望、憎悪、怨恨、嫉妬…
 昔も昔とて多くの問題を抱えていたが、近年の空気は酷い。大気でさえも澱んで見える。
 ――だが。
 何故であろうな。
 こんなにも氣がケガレていては社も無事では済まぬのが道理だが。何故か境内の氣は穢れを知らぬ。
 清き願は氣を清める。
 如何に世が荒もうと人の願いは変わらぬという事だろう。

 人は醜い。
 人は過ちを犯す。
 人は悔い改められぬ。
 されど、人は非道にもなり切れぬ。

 人の想いの在る限り、神もまた滅びぬのだろう。
 もしも滅ぶような事在れば、それこそ神にもこの國にも存在価値は無い。

 世は変わる。
 されど変わらぬものも在る。
 変える必要など無きものも在る。

 何もせずとも良い。
 守られるべきものは、
 絶える事無く受け継がれていくものだ




BGM : 蛙石 - soud from "舞風 ( MAIKAZE )" 〜 東方天ノ神月