『 幻狼幻想物語組曲 』
  第三楽章 ― 東雲 ―

 〜 Dream of Harvest tail 〜
   [ 狐色の追憶 ]

   track06 ‹Phoenix Wing›



 怒りと憎しみが追憶を焼き尽くした
 諦めと哀しみが剣を折った
 転換と出会いが歯車を動かした
 優しさと強さが再び炎を灯した



 人は解り合えない
 言葉はあまりにも未完成だ
 それ以上に人間はあまりにも未熟だ
 使えば使うほど、識れば識るほど、わたしは自分の武器の弱点を意識せざるを得なくなった。

 不完全な神の名を背負って、造ってきた幾多の大地。紡いできた幾多の歴史。
 しかし。
 一体誰がそれを必要とする? 一体誰にそれは愛される?
 道具は使われねば意味を成さない。言葉は伝わらねば意思を繋げない。
 ならばわたしの行為にはいかなる意味があるのか? わたしの存在にはいかなる価値があるのか?
 わたしは一度それを見失い、剣を手放した。
 希望は虚無へ溶け、翼は虚空へ散った。

 人は愚かだ。下らない事で競い合う。誰もが神へと至る路を持つのに、誰一人それを求道しない。
 下らない意地の張り合い。醜い蹴落とし合い。其処に共存共栄の文字はなく、最後に生き残ったただ一つが正しいという歪んだ正義のみが唯一不変の摂理として語られる。
 そんな世に価値などあってなるものか
 そんな摂理が是認されてなるものか
 怒りが視界を埋め尽くした。炎が全てを焼き尽くした。憎しみが全てを破壊し尽くした。

 そしてわたしは世界と隔絶された

 たった独りになって、やっと世界が落ち着いた。色を失った世界がわたしを包んだ。そして何もかもが素通りしていった。

 あの日聞いた唄は誰の心にも残っていないのだろうか?
 あの日見た光景は誰の心をも動かさないのだろうか?
 あの日口ずさんだ歌は誰の心にも届かないのだろうか?
 あの日描いた光景は誰の心をも救わないのだろうか?

 繰り返される自問自答。答えられるのは自分だけ。共感の無い世界には、いかに人が多くいようと孤独しか存在しない。
 空虚なものだ。
 見れば解る。誰もが空振りしている。誰もが地に足をつけず、誰もが灰色の世界だけを見ている。
 これでは届くはずがない。これでは解るはずがない。
 世界はこれほど広いのに
 世界はこれほど美しいのに
 誰一人としてそれに目を向けない
 誰一人として青い青い空を見上げない
 だから空はいつも灰色だ
 だから路傍の花はいつも灰色だ

 虚しいとは思わないのだろうか?
 哀しいとは思わないのだろうか?
 それとも、それを感じる心すらも死んでしまったのだろうか?
 魂すらも失ってしまったのだろうか?
 無機質すぎる世界で
 キレイすぎるセカイで
 個性すらも漂白されて、全て初期化されてしまったのだろうか?


 魂はどこに消えたのだろう?


 無機化したセカイ
 ガラスに侵食されるココロ
 解体されていく人の在り方

 わたしは、イヤだ

 再燃の契機は一つの出会い
 確約されし再開の奇跡
 ひび割れた心とココロ
 崩壊した世界とセカイ
 繋がった
 心で
 魂で

 魂に炎が戻った

 魂が在り方を取り戻した

 それでいいんだと

 そう云われたから



 わたしは人であり獣であり、そのどちらでもあり、どちらでもない。わたしは犬であり狼であり、そのどちらでもあり、どちらでもない。わたしは人工物であり自然物であり、そのどちらでもあり、どちらでもない。わたしは男であり女であり、そのどちらでもあり、どちらでもない。
 中途半端な存在。
 完全にどこかに属する事が出来ない曖昧な存在。
 それでも、それがわたし。
 たとえごく限られた人にしか肯定されなくとも、それがわたし。
 ラベリングされる事なく、カテゴライズされる事を許さず、曖昧で中途半端でどうしようもないぐらい未完成で不完全な存在。でも、それがわたし。
 決して否定できない己の魂の在り方。



 傷付いた翼を広げるのは痛みを伴った。折れてしまった剣は無残だった。
 でも、まだやれる。まだ飛べる。
 まだ生きていける。

 灰色の壁をブチ壊して
 透明なガラスをブチ破って
 その破片も鮮やかな輝きに変えて
 真っ青な空へと飛び出す

 今はただ翔ぼう
 飛跡を後で振り向く時
 きっと何かが見えるから




BGM : Sentence - soud from "Silver Forest" 〜 Sentence