あの頃のわたしは、誰からも必要とされていなかった。この世界に生きていることもおこがましい、ゴミにも等しい存在だった。「幸福」なんてコトバは誰かもっと恵まれた人のためにあるんだと思ってた。わたしは一生幸せなんて知らずにくたびれてしわくちゃになって捨てられるんだって思ってた。
救ってほしかったんだろう、誰かに。本当は助けてほしかったんだろう。でもわたしは気付いたら差し伸べられた手を全て振り払っていた。
見下されている気がして
どうせわたしみたいな惨めな人間を助ける事で立派な自分に酔いたいんだろうって
わたしは救いようのないバカだった。最低な人間だった。
いつも独りだった
独りがよかった
誰かと連れ合うのがイヤで
心のどこかで恐れて
でも、本当は寂しくて
恋しくて
紛らわすので精一杯だった
だから傷付けた
誰も彼もを傷付けて近寄れなくした
「これでいいんだ」
そう、自分に言い聞かせて
彼女と出会ったのは奇跡にも近かった。彼女といる事で、渇いてカサカサになったわたしの心がだんだんととけてほぐれていった。
引っ込み思案で地味な彼女。
わたしが居ないと何もしない彼女。
わたしが生まれて初めて必要とされた瞬間。
わたしは彼女に惹かれていった。
正確には、彼女に必要とされる時間に惹かれていった。
きっと彼女自身の事はどうでもよかった。
ただ、わたしを必要としていればいい。
それだけでいい。
そんな横暴な要求ばかりした。
彼女は何でも許した。
寛大、というよりもむしろ他人のために自分を犠牲にできる己に酔っていた。
似ているな、と思った。
自分を守るために他人を傷付けるわたし
自分を肯定するために他人に傷付けられる彼女
奇妙で歪で不安定で、それでもバランスが取れた関係だと思ってた。
でも
そんな関係も割とスグに壊れた。
変わったのは彼女だろうか
それともわたしなんだろうか
彼女はわたしを必要としなくなった。
自分で色々な事をしだした。
わたしのワガママに飽きたのか一緒にいる時間も少なくなった。
そして裏切りの原因を知った
あんなヤツにカレシができた
あんなどんくさくてトロくて地味で何の取り得もないような女に
どこから出たのかは分からない。ただ、無性に殺したいほどの憎悪がわいた。
裏切った
そう罵って彼女の髪を引っ張った
殴った
蹴った
ボロボロになるまで踏みつけた
そこまでやって、わたしは笑った
泣きながら笑っていた
後になってから気付く。
他人を見下して悦に浸っていたいのは他の誰でもない、わたしだ。
彼女はカガミみたいにわたしの醜い部分を見せつけた。
わたしは、自分自身の醜さに耐えられなくなったんだ
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