――アニエス
 
 
「 なに辛気臭(しんきくさ)い顔してんだい? 」
 そんな事言いながらこっちに寄ってくるハーマン。まったく、何しに来たんだい? このスットコドッコイの三枚目は。
「 なにを泣いてんだよ。辛気臭いなぁ 」
 そう言ってあたしの(となり)に腰を下ろすハーマン。
「 うるさい! 」
 思わず、あたしは声を(あら)げた。耳が火照(ほて)っているのが自分でも分かる。()ずかしさは鎮圧(ちんあつ)するのが一番(むずか)しい。
「 なにムキになってんのさ。そんなに()み付いてくるなよ 」
「 うるさい! 」
 あたしはさらに怒鳴(どな)る。本当に噛み付くような(いきお)いだった。まるで、恥ずかしさを払拭(ふっしょく)するのはそうする他ないとでもいうように。
「 しょうがないなぁ。じゃ、特別だ。昔話でもしてあげよう。それで泣き止むんだよ 」
「 はぁ? 」
 ハーマンのあまりにもバカっぽい言葉に、あたしは怒鳴るよりも先にワケが分からなくなった。
「 あるところに―― 」
 ホントに始めやがったよ…
 (あき)れて溜息を吐くあたし。
「 あるところに、幼い少年がいました 」
 もう、勝手にやってな
 あたしは無視と決め込んで抱えた(ひざ)の上に(あご)を乗せて夕日を(なが)めた。